とっくに狂ってる

ももいろクローバーZを追いかけ、匿名性に寄りかかりながらたまに書く。

先週末ももクロの百田夏菜子と話してきた

 

 

ももいろクローバーZ百田夏菜子さんがソロコンサートをやるというのでさいたまスーパーアリーナに行ってきた。

昨今の感染症情勢や個人的な事情が重なり推しを摂取する時間をほとんど持てずに生活していた私はすっかりオタクの筋肉を失っていたが、この日さいたま新都心駅に降り立った私はバキバキにいきり立ったマッスルフォーム。推しのソロコンサートはステロイドである。

  

ソロコンサートはやらない、と思われていた百田夏菜子さんがついに開催してくれた単独のライブ。

Talk With Me 〜Cinderella time~』と題のついた、二度と見ることができない(と私は思っている)アイドルライブを書き残しておく。

「ソロコンサートはやらない」と思われていた百田夏菜子のソロコンサートは果たして良いものに仕上がったのかめちゃくちゃ良かった最高。 

 

 ① 百田夏菜子にとってのTalk with me
 

Talk  with me』というタイトルが良いよなぁ………ライブ当日から2日経った私は再読したパンフレットを両腕で抱え当日を思い出しながらぼやく。

 

ももいろクローバーZのリーダー、百田夏菜子とはどんな人なのか。どんなアイドルなのか。

世間の多くの人の持つイメージはせいぜい、天真爛漫で明るくてテンションが高く、かわいいや美しさや強さや優しさや格好良さを早送りした四季のように私たちに見せて心を明るく照らしてくれる人類史初の太陽、と言ったところだろう。しかし今回、百田夏菜子さんが見せてくれた『百田夏菜子』はそれだけではなかった。

 

百田夏菜子さんという方は、内向的な側面を持ち自己対話で答えを出す人だ。

今回のソロコンサートの1曲目『魂のたべもの』を観たことでそれを感じた、再認識したファンは多いと思う。

この曲で歌われるのはまさに自身の内側への問いかけだ。自分の魂にとって必要なものを「たべもの」と置いて、何で満たされることが幸せなのか、と問いかける。

ちなみに鬼束ちひろあたりのカバーではない、ももいろクローバーZの持ち曲だ。

Talk with me』一曲目で、この曲を、自分と同じような白い衣装に身を包んだパフォーマーと向かい合ったり横に並んだりしながら歌う。

 

百田夏菜子さんは今回のライブ『Talk with Me』を自分自身が行うことから始めたのだ。

そうだとすると、この一曲目はとても百田さんらしい解である。

「セルフプロデュースが苦手」とパンフレットのインタビューでも口にしていた百田さんの、「ソロコンサートという舞台で何をしたいか、どんな自分を見せたいかわからない」という迷いや葛藤がそのまま「自己対話」に繋がり、今回のライブコンセプトに沿ったこの上ない選曲に繋がっている。

 

百田さん自身はそんなことまで考えていないかもしれない。彼女はさんざん入らなかったフリースローを突然後ろ向きで決めてしまう人なので。

どちらにせよ私はライブが始まっていきなり百田夏菜子の内面を覗けてしまうような演出にドキッとさせられてしまった。

Talk with meは「百田夏菜子会議」からスタートした。

 

 

百田夏菜子は語るように歌う

 

頼りない表情から覚悟の顔へ、笑顔から鋭い眼差しへ、嘘のように一瞬で変わる彼女の表情の豊かさには今回も心を揺らされてしまった。私などは百田さんのあの万華鏡のような表現の中毒なのだと思う。

そしてその表情に加え、今回のソロコンサートの百田さんの歌にはセリフのような歌い回しが特に多かった。

これもコンセプトを意識した表現なのかどうかはわからないが確かにそうだったように思う。

ももクロの名曲バラード『キミノアト』に始まり、自身の作詞曲『それぞれのミライ』、戸田恵子さんの『強がり』などは随所に語るような歌い口が見られ、『The Show』の最後のフレーズ「人生というShow、楽しみましょう」なども、完全に語りを含んだ歌唱だった。

 

それにしても「人生はShow」だと歌うThe ShowはももいろクローバーZという、自分達の軌跡を表現にし続けてきたアイドルが歌うことで何倍も深く刺さるよな(追加の缶ビールを開ける)

 

百田さんは昔からこの語るような歌唱表現を持っていた。彼女がグループで歌う落ちサビが刺さるのは彼女の歌が「彼女の言葉」として聞こえるからだ。

それがより刺さるようになり「コンセプトに合わせた表現」というテクニックとして確立できているのは歌唱力だけでなく、彼女が積み重ねてきた多くの現場での演技経験の賜物だろう。

『夢の浮世に咲いてみな』の「少女は扉を開けた」のところで彼女の表情が切り替わる瞬間で会場にいたオーディエンス78億人(まだ見ていない人を含む)の鳥肌を立たせ、

リバイバル』でダンサーとのダンスパートを最高にクールにこなして格好良いアイドルを散々に見せつけた後にMCを挟んで歌う『強がり』への陽陰の移り変わりには驚いてしまった。

 

『強がり』で歌われる「私は本当はこんな強い人間ではない」という歌詞だけでなく、『タキシードミラージュ』での恋愛的表現すら「もしかしたら本当の百田夏菜子の言葉かも」と思わせる力が彼女にはもう、ある。

それだけ彼女の発する言葉は力を持ち、重い。私がライブの感想をつらつらと数千字書き並べたものなど一言で吹き飛ばすほどのウェイトだ。これがボクシングならあり得ねえ。

今回のライブコンセプトでは、そんな百田さんの「言葉」の強さが自然な表現として私たちの心を揺らした。

 

もちろん、彼女自身の言葉のようにしっかりと意味が乗っかっている彼女の歌は「本当にそうかもしれない」を含むわけだけど、それはまた別の拗らせ方をした人達が楽しむ(?)ための余白だ。

 

 

百田夏菜子、シンデレラだった。
 

 

百田さんは今回、自身が作詞した新曲「ひかり」を歌ってくれた。

彼女が地元の静岡と東京を往復して芸能活動をしていた頃、地元を離れ「茶畑のシンデレラ」としてアイドル活動をするためだけに東京にいる時間から、今回のソロコンサートの副題である『シンデレラタイム』が付けられていて、

『ひかり』の中に掛詞で何度も登場する新幹線は、地元から東京に通う彼女にとってはガラスの靴だったわけだ。

 

ちなみに本家のシンデレラはガラスの靴を脱げたまま家に帰るが、百田さんは終電の新幹線で寝過ごすというガラスの靴の脱ぎ忘れエピソードを持っていて実に良い対比だ。

 

そして「ひかり」を新幹線に当て字し、ガラスの靴の隠喩とすると

『赤い幻夜』から恋愛を歌う『タキシード・ミラージュ』へ、そして『ガラスの靴』を脱いで『白金の夜明け』を迎える、と言うピアノパートの曲順がシンデレラのストーリーを綺麗になぞっていて唸ってしまう。演出に加わっている踊る大捜査線の監督の仕業だろうか。

 

そんな本編最後の『白金の夜明け』は聴くたびに良いと言っている気がしたので省こうかと思ったのだけど、ピアノの不協和音で不安感を与えてから始まる演出が曲に合い過ぎていて嫌になってしまった。好きな方の嫌、だ。

百田夏菜子は、ももいろクローバーZは多くの不協和音を乗り越えて今、4人の歌を歌っている。

 

「悲しいことなど何もない」と言うように元気をくれたあの頃も彼女達は私達大人を熱狂させたが、「悲しいじゃ済まされないことだらけ」の世界で変わらず元気をくれる今のももいろクローバーZが心の支えになっている人は沢山いるはずだ。

いまだに十代が旬とされることの多い女性アイドル界で「いくつもの荒波を超えて大人になったから刺さるアイドルエンタメ」でシーンの先頭を走っているアイドルが他に何組いるだろうか。

そのグループのリーダーが百田夏菜子だ。

私は「ももクロの曲はももクロ全員で歌ったほうが良い」派の人間なのだけど、この日の百田さんの『白金の夜明け』は前述したそんな感情をとてもリアルに思い出させてくれる特別な良さがあった。そしてその後に残るのは「どうかずっと幸せでいてくれ」である。

私はこの話を何回もしているしこの先もしてしまうと思う。

 

どうかずっと幸せでいてくれ。

 

アンコールのイマジネーションでバンマスの宗本康兵氏とピアノを連弾していたのがあまりに無邪気にかわいいものだからオタクの友人が「会社で私の隣でエンターキー押して欲しい」と呟いていたことや、最後の曲『渚のラララ』で百田さんを筆頭にバンドメンバーが楽器隊列を作っていたところは国民的海鮮一家の有名エンディングを彷彿とさせて胸が暖かくなった話はいつか飲みながら聞いてほしい。

 

そしてオープニングで時計の針の音から始まった百田夏菜子のシンデレラタイムは、最後も時計の音が鳴り響く中で彼女がステージを降り、終了した。

 

 

百田夏菜子さんは、ファンとして追いかけていると太陽のような明るさの中に冬の夕焼けのような寂しさが見え隠れする人なので、彼女がアイドルとして普段見せない人間的な葛藤についての表現には時折胸をキュッと締め付けられた。

実際「ももいろクローバーZ百田夏菜子でした」と少し戯けたような照れたような最後の挨拶にとても安心感を覚えた私がいた。

 

それでも百田さんはパンフレットで語っていたように「どうしたら喜んでもらえるか」と言う問いの先に今回のソロコンサートを開催してくれている。

明るくて可愛くて強くて少し切なくて、嘘みたいに優しい最高のヒロインなのだ、百田夏菜子さんは。

彼女が見せてくれる木漏れ日のような優しさも直射日光のような眩しさも、寂しさを冬の夕焼けも、私は百田夏菜子という最高のアイドルと過ごすシンデレラタイムとして享受していきたい。

 

ももクロのライブに行くとこんなヒロインが後3人も登場するのどうかしてるよな。

ちなみに百田夏菜子と話してきたと言うのは嘘だ。

私は終演後しばらく経つまで全ての語彙が死んでいたので。